
未完の毬
高市 寿子
初鏡 若さに向かひ 廻れ右
老梅に うす紅の 固つぼみ
老ゆる事 追ひ払う術 日向ぼこ
初晴や 雀と分つ もの探す
鼻唄の 聞こゆ 四温の 厨より
初日さす 部室に木の影 鳥の影
寒木瓜の 紅のこぼるる 文机
枯菊を 燃して狭庭を 整へり
着ぶくれて 掛声かける 起居かな
雪こんこん 創る別世界
明日ありや 今日のみに咲く 寒椿
あかぎれの 指に編棒 休みがち
沈丁の 香りを活けし 友の居間
着ぶくれて 足もと弱き 齢かな
樹の声の 浮きうき聞ゆ 黄芽青芽
明日のあり陽にふっくらと名草の芽
そこここの 土の湿りに 春きざす
針はこぶ 指先ほぐれ 春近し
新しき 庭木の傷に 春の雨
一粒の 土を担いし 物の芽よ
婆の膝 仔犬に貸して 春の昼
ものの芽の 息吹き婆にも伝はるよ
炊きたての 土筆の淡き 香り哉
春風に 五体をさらす 余生かな
三月の 土の匂ひの 甘きかな
桃咲きて 庭の焦点 移りけり
雨の音 芽吹きの音と かさなれり
あと一息 絵筆の咲かす 初桜
春の夜 テレビで旅の プラン立て
盆梅の 手しおの蕾 ふくらみぬ
雪昏れて 婆の冒険めく旅行
木より木に 小鳥飛び交ひ 春遅し
孫生れて 春の足音 我が家にも
遠出して 足よろこばす 若葉風
じっと見る 桜も我を じっと見る
白蓮の からくりくぐる 小鳥かな
島の影 木の影窓に 大旦
初蝶や 新米パパに 嬰抱かれ
連翹や ペットと語る よろずごと
晩学の 文机に木瓜 朱し朱し
春の野に 神経痛の 脚を引く
健康な たんぽぽ横目に 医者通ひ
行き来して 山吹の黄に染まりけり
万緑や 嬰児は手のばし 足のばし
片ほほを なぶるにまかす 花菜風
新緑に 染まりし犬と 家路かな
若菜風 こころそはそは 外出ぐせ
真四角な 箱に花種 丸くまき
梅匂ひをれども 夫の七七忌
春ゆふべ 膳の向ふに 夫の亡し
サボテンに リボンの様な 赤い花
万緑や ロッジの赤き 屋根尖る
嫁が訪て 孫訪て瓜の 肥り過ぎ
朝顔の けさは紺色七つも咲く
子の呉れし 土産のりんご赤し赤し
クレオン画 孫とゑがきて日日涼し
柿は実に 私も一つ 夢殖やす
囀りの 音色聞き分く 耳掃除
山吹の 八重活けて待つ 昼下がり
葉桜や 友との歩巾 ピッタンコ
あぢさゐの 未完の毬に 独り言
五月雨や 膝をくずさず 初対面
万緑は 袋小路にもありぬ
戸をくれば 小鳥の歌と 涼風と
庭すみの 薔薇の真赤を 羨しめり
未完の毬 付けてあじさゐどんな色
柿の花 夢二つ三つ 脹らめり
野の花に 夏蝶大き過ぎる羽
夏蝶に 振りむきざまの 初対面
耳二つ 遠郭公に あずけけり
夏蝶の 浮かれし舞ひに時すごす
青葉光げ 髪の先まで 夢見がち
散策の つかず離れず 畦の蝶
南風のなか 一坪ほどの 畑作り
紫陽花に 目で問いかくる今朝の色
小心な 我を洗ひに 夏の海
夏座敷 窓に海おき 鴎おき
サボテンの四つ子生れて日のまぶし
初もぎの 胡瓜あふらす 両ポッケ
思い出を 部屋中満たす 土用干
ミサ終へて 皐月の空を 新たにす
水鶏きて 沈む心の 戸をたたく
万緑や 一直線に 鳥吸はれ
哀しめば 梔子の香に 突き当たる
端居して 犬の親仔と 刻わかつ
夏布団 蹴る児にばばの 余生あり
緑陰に こまぎれの空 仰ぎをり
山と海 一望にして 夏館
遠蛙 はやしてくれる 終ひ風呂
老い静か 花くちなしの 浮く夕べ
憂きことも 風鈴の音にまぎれけり
夕涼み 気ままに動く 古時計
夏ふとん ふんわりいゆる 旅疲れ
全身を 目にして習う 盆踊り
赤い花 付けし秋草 名も知れず
唐がらし青し 一輪挿しに活け
朝顔の 蔓の迷子に 手をかせり
夏休み 婆にも宿題 二つあり
友の目も 追い居り藪の からす瓜
大でで虫 庭の主の 顔をもつ
孫送る 列車の消えて 夏果てる
心の窓 開きまんまる 夏の月
雑草の てっぺん好きの 赤とんぼ
二打三打 ゲートボールの 音の秋
ピラカンサ真っ赤な実付け野鳥待つ
曼珠沙華 川面を赤く ゆらしけり
秋桜 ぱっとお部屋を新たにす
秋彼岸 夢にふりむく 母若し
初孫を 抱え木犀 香の甘し
独り居の ワインが友よ 秋の夜
秋雲の かけ足照ったり 曇ったり
雨後の 土くれ付けて 花茗荷
恙なき 夕餉のぜんに 秋刀魚のせ
憂きことは 木犀の香に 包みけり
遠瀬音 近き瀬音や 山の秋
萩の路 腕くむ人の なかりけり
せせらぎも」野鳥の声も 狭霧なか
秋風の うしろ髪より 赤城去る
唄一つ 野菊にきかす 峠みち
車窓より 小刻み深む 山の秋
枕辺に 鈴虫の音の ころがれり
耳かさぬ 夫との生活 ちろろ鳴く
新開の 峡間に重く 稲穂熟る
赤シャツの 案山子に小犬尻込めり
秋雲の いたずら照ったり曇ったり
流燈の 絵模様余白 多くして
晩学に 親しさ加ふ 秋ともし
きのふより今朝の散歩の こぼれ萩
霜踏みて 朝の起居に リズム持つ
ピラカンサ 日日に色付く狭庭かな
木の実降る ゲートボールの弾む音
太陽の 一つぶ種か 烏瓜
仏壇に 白菊黄菊 かほりけり
御陵に 秋の織りなす 野山かな
菊活けし 指に残れる 香り哉
犬の声 はげしく秋の 闇おそる
菊香る ひと日舞ひけり 老人会
一片の 柚子の香れる 魚料理
太陽に 恋して庭の 柿真赤
新米の 弁当とどく 同窓会
来ぬ友に 落葉の音の かはきかな
講義きく 足より冬の 来て居りぬ
舞ふ落葉 くぐりて齢 なかりけり
冬枯れの 野鳥にお宿貸しましょか
おしゃべりで 今日を繕う日向ぼこ
庭池の 深処に落葉 鯉の類
初茜 きのふの鳥が 来てをりぬ
九ヶ月の 孫の起ったる 初笑ひ
初鏡 ロマンスグレーの 髪梳くや
腹中の 雑煮へ シェイプアップ急
パンの耳 くわえ損なふ 寒雀
越ヶ谷の木々の芽吹きもいそぎけり
よちよちの 赤児に踏まれ 春の草
お雛さま 今年も会へし 嬉しさよ
背の高き 低き庭木も 春待てり
私の好きな一句 高市寿子
生きる金 そんなにいらず 栗をむく
風間ゆき
私はこの一句を鑑て、自分の今の心境に近い処がございますので、好きになりました。
子供の頃剥いた栗、そして齢を重ねた今も剥いている栗、どうにか健康で平穏な毎日ー。
とても平和な句だと思います。私の様な不勉強な者にでも和やかさが伝はって来ます。
七十才になって、やっとこの句の様に、今日をそれなりに楽しく生きる事が大切である事に気付きました。
若い時は、自分不相応な生活を夢見たり、不足の固まりの生き方でしたが、作者の方の お齢が解かりませんが、垢を綺麗に洗い流し、つつましく清々しい生活を詠まれたのだと思います。
私も、栗とまでいかなくとも、枝豆でも戴き乍がら、自分にふさわしい生き方を見付け、作句に励みたいと思います。
点滴に つながれてきく 桜便り
卓上の
すみれたんぽぽうらやまし